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第2話 こんなスキルでどうしろと?

Author: 黒蓬
last update Last Updated: 2025-03-01 14:56:09

「う、うぅん」

目が覚めるとそこは森の中だった。中とはいっても直ぐ側に街道のようなものが見える。森の端のほうなのだろう。

神のような存在との会話はまだ覚えている。恐らく意味も分からずこの世界に降り立ってまた混乱しないようになのだろう。

まずは自身の状態を確認する。確かにこの世界の基本的な知識が分かる。

次に持ち物なども確認してみる。

服装はこの世界の旅人の標準的なもののようだ。

持ち物は何やら色々入った背負い鞄を持っている。

どうやら死んだときに持っていたのと同程度の品物があるようだ。

ありがたい。これならうまく売ることさえできれば一先ず生活に困ることはないだろう。

あとは、能力か。魔法は残念ながら使えない様だ。

スキルはあるな。良かった、こんな世界で魔法もスキルもなかったら生きていく自信を無くすところだった。

早速スキルの内容を確認してみる。

--------------------------------

スキル:わらしべ超者Lv1

自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。

交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。

スキル効果により金銭での取引、交換はできない。

--------------------------------

・・・・・・は?

信じられない気持ちで見直すが何度見ても結果は変わらない。

金銭での取引はできない?なんだそれ、商人として終わってないか?

いや、確かに田舎の村では農作物と薬や消耗品などを物々交換していたこともあるが、基本は金銭での取引だった。

この世界の常識と照らし合わせてみても基本は金銭取引だ。

それになんだ交換レートは好感度により変動するって!

いやまぁ、嫌いな人からは買いたくないとか好きな人には奮発するとか分からなくもないけど、これどの程度変わってくるんだ?

スキルの詳細を知ろうとしても情報は出てこない。

とりあえずどこかの村や町で試してみるしかないか。

何だかいきなり商人としての道に影が差した気がして気落ちするが、まずは生活基盤を何とかしないとそれ以前の問題になってしまう。

手持ちの食糧も心もとないしまずは町か村を見つけないとな。

そう考えてまずは街道に出て周りを見渡してみる。

幸いなことに視界の端の方に村のようなものが見えた。

スキルはともかく村の近くに送ってくれたのはあの観音様に感謝だな。

そう思いつつ村の方へ歩いていく。道中薬の材料になる草花も森の側にいくつか生えていたので摘んでいくことにした。

「お、これも良さそうだな」

こういうものの知識があったのはありがたい。需要さえあれば元手ゼロで稼げ・・・もとい取引できるからな。

そう思い摘んでいると、森の奥でカサリと音がした。

嫌な予感がしてそちら見るとそこにはウサギの様なものが居た。

様というのはそのウサギの額には立派な角が付いていたからだ。

一角ウサギ。この世界ではポピュラーな動物だ。危険度は低い。

但しその危険度はある程度戦闘技術を持つ者での基準だ。

つまり今の俺には十分危険な相手ということになる。

思わず固まっていた俺とそいつの目が合った。

するとそのウサギは獲物を見つけたように姿勢を低くした。

(ヤバい!)

咄嗟に右に飛ぶとその横を飛び掛かってきたウサギが通り過ぎて行った。

慌てて立ち上がり、ウサギが再度姿勢を整える前に街道に戻ると村の方へ向かって走る。

まだ後ろからウサギが追いかけてきているのが足音で分かる。

「た、助けてくれー!」

村の前に立っていた門番のような男にそう叫びながらまた右に飛ぶ。

少し前に後ろの足音が聞こえなくなったのだ。

案の定飛び掛かってきたウサギが脇を通り抜けていき門番の男の手前辺りで落ちた。

男は俺の声で気づいていたようで、慌てることもなく持っていた槍で着地したウサギを見事に仕留めた。優秀な人のようだ。助かった。

立ち上がって男のほうまで行きまずは礼を言う。

「助けて頂きありがとうございました」

「あぁ、そんな畏まらなくていいよ。それよりあんた護衛もなしに旅をしてきたのか?一角ウサギくらい自分で対処できないなら一人旅は危険だぞ」

「いやぁ、返す言葉もない。一応対策は用意していたんだが咄嗟のことで慌ててしまって」

一応嘘ではない。鞄の中には目つぶしに使えそうな粉末がある。だが、あの時すぐに取り出せるような状態ではなかった。

「そうだったのか。それは災難だったな。こっちは今日の飯が豪華になりそうでラッキーだったが」

一角ウサギの肉は美味いらしい。それに角は薬の材料になるということで危険度の割に素材が優秀で低ランク冒険者にとっては美味しい獲物だった。

「はは。それは良かった。ところでこちらは何という村ですか?」

「なんだここの名前も知らずに来たのか?ここはリブネントだ。」

男は少し怪訝そうな顔をしながらも教えてくれた。

「リブネントですか。いや実は、道中で少し事情があって道を変えてしまったもので」

「なるほど。襲われたのがこの近くで良かったな。この辺は危険な生物もほとんどいないし」

咄嗟のごまかしだが納得して貰えたようだ。

不審に思われるのは承知だが聞いておかなければならなかった。村内でも話題に出るかもしれないし、次の村か町でもどこから来たか聞かれる可能性があったからな。

「そうですね。優秀な門番さんにも助けて貰えましたし」

「よせやい。まぁ、うちの村には商人が来ることも少ないからあんたの品物によっては重宝されるかもな」

「そうなんですか。今は薬が多いんですが需要はありそうですか?」

「薬なら売れるだろうな。しばらく薬を扱ってた商人が来てなくて最近は不足気味になっているからな。」

「そうか。それなら役に立てそうです。村のこともう少し聞いても良いですか?」

「あぁ、構わないぞ」

そうして門番の男から色々聞くことができた。

村には小さいが道具屋と食料品を含む雑貨屋、後は食堂兼宿屋があるらしい。残念ながら武器屋はなかったが、道具屋でナイフか杖程度ならあるだろうとのこと。

村の周辺は畑が殆どであとは俺がきた森があるくらいという話だった。

異世界で碌な準備もなくいきなり野宿は避けたかったので宿屋があるのはありがたい。

「なるほど。色々と助かりました。これ、よければ使ってください。一角ウサギの肉に合うと思うので」

「あぁ気にすんなって・・・ん?まさかこれソランの実か?高級品じゃないかほんとにいいのか?」

「あぁ、助けて貰った上に色々教えてもらいましたから。そのお礼です」

「そうか、じゃぁ遠慮なく。あとで妻にも話しとくよ。良さそうな商人が来てるってな」

「ありがとう。それじゃ」

そうして門番の男と別れ、食堂兼宿屋へ向かう途中でふと気づいた。

・・・金がない。

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    個人戦は一人でのパフォーマンスになるため、やはり複数属性を扱える学生が多かった。チーム戦ほどの派手さはなかったが、一人で複数の属性を操ってパフォーマンスを行う技量の高さはなかなか見ごたえがあった。 そうこうしているうちに例の彼女クレアの順番が回ってきた。「さぁ、最後は学園きっての天才魔導士の登場だーー!!」司会の男性がテンション高めにクレアの登場を告げる。(彼女そんなにすごい魔導士なのか・・・)呼ばれたクレアは何故か申し訳なさげにしながら登場して一礼してからパフォーマンスを開始した。 それを見た俺は彼女が天才と呼ばれたことに納得しつつも、さらに驚かされることになった。彼女は火・水・風・土・光・闇の6属性全てを使いこなしていたのだ。 火で円形のリングを作り、その周りに光と闇で影の観客席を作り、生み出した水から水のゴーレムを、地面からは土のゴーレムを作り出して、風が音声機の声を俺達の耳に届けた。 出来上がったのは影の観客たちが歓声を送る中、水と土のゴーレムがリングの中央で力比べをする舞台劇だった。「これを・・・一人で・・・?」 『確かに、これはレベルが違うわね。何故か本人は自信なさげにしているけど』カサネさんは同じ魔導士として驚嘆していた。それはそうだろう、彼女の4属性持ちでも希少だというのに、全属性を持つだけでなくこれだけ巧みに操っているのだから。 気になるのはロシェの言う通り本人の様子だった。ものすごいパフォーマンスをしているというのに当の本人は自信なさげというか申し訳なさそうにしているのだ。(もしかすると、この大会への出場は本人の意思ではなかったのかもしれないな)他の人達は殆どが舞台劇の方に目を奪われていて彼女の方は気にしていないようだ。劇は最終的に力で押された水のゴーレムが火のリングに足を踏み入れたところで足が蒸発してしまい、バランスを崩して場外負けという形で終わりを告げた。クレアが再び一礼して舞台袖に消えると、盛大な拍手が送られた。 個人戦の勝者は決まったようなものだろう。他の子達のパフォーマンスも良かったが正直レベルが違い過ぎた。

  • 人生の続きは異世界で~交換スキルの代償は金銭NG!?~   第63話 魔法学園祭二日目

    街の広場を色々見て回っていると時刻も夕方に差し掛かる頃になっていた。 幾つかの取引もできて出店を満喫したところで今日は帰ることにした。 カサネさんも魔道具や本などをいくつか購入していたようだ。ミルドさんの家に戻るとエフェリスさんが今日も美味しい食事を用意してくれていた。どうやらお店も去年より盛況だったらしく一日でほぼ売り切れたため、明日は家族で学園祭を楽しむことにしたらしい。次の日、ミルドさん達と一緒に魔法学園まで向かいミルドさん達は先に出店を回るということでそこで分かれることになった。 俺達は予定通り、魔法練習場に向かうことにした。 塔まで歩いて行くと20人程の列ができている。塔を使えるのは一度に10人程度らしい。「細長い塔ですね。これでどうやって上まで行くんでしょう?」 「なんらかの魔法なんだろうけど、俺にはさっぱりだな」 「そういえば人数制限があるみたいですけど、ロシェさんはこのまま乗れるでしょうか?」・・・た、確かに。考えてなかった。どうしよう。『考えてなかったって顔ね。気にしなくていいわ。私は先に上っておくから』そういうと、ロシェの気配が俺から離れて山の上の方へと離れていくのが分かった。自力で登っていったらしい。流石だ。「もう山の上まで行ったみたいだ。早いなぁ」 「かなりの急勾配ですのに。流石ロシェさんですね」話しているうちに俺達の順番が回ってきた。 塔の中に入ると、何もない丸い空間で床には魔法陣のようなものが描かれていた。 塔の管理をしている人が「起動しますので動かないでください」と声を掛けて、壁際に合ったパネルのようなものに触れると、一瞬視界がぶれて次の瞬間には先ほど入ってきた入り口が無くなっていた。「え?」 「到着しました。出口は反対側です」言われて反対側を見ると確かに入り口と同じ扉が開いていた。 俺達以外にも数人が驚いた様子を見せながら出口から出て行く。恐らく初見かそれ以外かの違いなのだろう。「何が起きたのか全く分かりませんでした。流石は魔

  • 人生の続きは異世界で~交換スキルの代償は金銭NG!?~   第62話 魔法学園祭初日2

    魔法学園の学園祭だけあって、出し物は魔法を絡めたものが多かった。 教室に暗幕を掛けて光の魔法でプラネタリウムのようなものを見せたり、 冷気で快適な温度に設定された喫茶店なども休憩所として好評な様だった。「学生ごとに違った発想で出し物を考えていてすごいですね」 「あぁ。中には当日楽をする狙った展示物の様なのもあったけど」 「ふふっ。確かにあそこは受付の学生さん一人だけでしたね」などと出し物の感想を話しながら歩いていると、ドン!と右側から何かがぶつかってきた。「あいったたた・・・あ、ご、ごめんなさい」 「あぁ、いやこちらこそ。大丈夫か?」ぶつかってきたのは学生の女の子だった。走っていたうえ、ぶつかったのがちょうど曲がり角だったため避けられなかったらしい。「は、はい。全然大丈夫です。すみません。急いでいるのでこれで」そう言うと、彼女はこちらの返答も待たずに行ってしまった。「随分急いでいたみたいですね」 『・・・これ、さっきの子が落としたんじゃない?』ロシェがそう言って指さした先には革製の薄いケースのようなものが落ちていた。拾って見てみるとどうやら学生証らしい。先ほどの女の子の顔写真も載っていた。名前はクレアというらしい。「そうみたいだな。どこに行ったか分からないし、落とし物として案内所にでも届けるか」 『これだけ人が多いと気配を追うのも難しいし、それが無難でしょうね』ということで、多少寄り道しつつも案内所に学生証を届けると時刻は昼過ぎになっていた。近くの出店を見ていたカサネさんのところへ戻ると、男子学生と何やら話しているようだった。「お姉さん一人?実は俺も友達にドタキャンされちゃってさ、良かったら一緒に回らない?」 「いえ、連れが居るので」ナンパだった。ほんとに一人でいると良く声を掛けられている。こういう場だとなおさらかもしれない。ともあれ、カサネさんの機嫌がこれ以上悪くなる前にさっさと合流したほうが良いだろう。「お待たせ」 「あ、おかえりなさい」 「ちっ、ほんと

  • 人生の続きは異世界で~交換スキルの代償は金銭NG!?~   第61話 魔法学園祭初日

    翌日、起きて一階に降りるとミルドさん達は既に家を出るところだった。「おはようございます。もう出るんですか?」 「おはようございます。えぇ、書置きを残しておいたんですけど、朝食は作っておいたので食べて下さいね。予備の家の鍵も置いてます。返却は今夜で構いませんから」 「え?今夜もお世話になっていいんですか?」 「え?・・・あぁ。そういえば言ってなかったですね。学園祭は明日まであるんですよ。ですので、もし急ぎでなければ明日も楽しんでいってください。今日とは違うイベントなどもあるみたいですよ」確かに昨日の話では何日間あるのかは聞いてなかった。 折角こう言ってくれていることだし、もう一日お世話になろうか。「そうだったんですか。急ぎの用はないので、もう一日お世話になります。何から何までありがとうございます」 「いえいえ、それでは行ってきます」挨拶を済ませると三人は荷物を持って家を出て行った。 少し遅れて起きてきたカサネさんと朝食を頂いてから家を出て、まずは学園の方に向かってみることにした。通りがかりに見てみると街の広場も既に賑わいを見せているようだ。「朝から結構にぎわってますね」 「あぁ、こっちは主に学園祭で集まってくる人をターゲットにした商売だな。本来なら商人の俺はこっちに混ざるべきなんだろうけど、まぁ今日は休日ということで学園祭を楽しむことにしよう!」 「ふふっ、変に拘っても気になって集中できないかもしれませんし、良いと思いますよ」 『あなたのスキルは割といつでもお祭りに近いと思うけどね』ロシェッテが呆れたようにそう言った。 確かにレベルが上がったおかげなのか、最近は店を開けば通りがかった人の何割かは何かしら買ってくれるし、旅の途中ですれ違う人達から取引を持ち掛けられることもあるのだ。「つまり普段から働いているわけだし、休んでも問題ないということだな」 『はいはい、そうね』そんな話をしながら学園へ向かう。学園が近くなるにつれて人が増えてくる。 やはりこちらがメインなだけあって集まっている人の数も段違い

  • 人生の続きは異世界で~交換スキルの代償は金銭NG!?~   第60話 エフェリスのコロンケーキ

    「楽しみにしてます!」 「それじゃ、部屋に案内するよ。こっちだ」ミルドさんが抱えていた荷物を近くに置いて俺達を部屋に案内してくれた。 俺達はエフェリスさんに一礼してからミルドさんの後を付いていく。「こことその隣が空き部屋だ。掃除用具とかはあそこの籠の中にあるから好きに使ってくれ」ミルドさんが案内してくれたのは二階にある突き当りの部屋だった。「ありがとうございます。あと、学園祭のこと後で教えて貰っても良いですか?俺達基本的なこともよく分かってなくて」 「あぁ、構わない。夕食の時にも話題になるだろうから、その時に説明しよう」 「分かりました。お願いします」 「それじゃ、悪いが掃除の方は頼んだ。俺は準備の方を手伝ってくる」そう言うとミルドさんは一階に戻っていった。 部屋を開けてみるとどちらの部屋にも最低限の家具は置かれてあった。元は客間か誰かの部屋だったのだろうか?ただ、やはりしばらく使われていなかったようで、それらの家具は埃を被っていた。「それじゃ、美味しいデザート、いえ食事のために頑張りますか!」 「あ、あぁそうだな」カサネさんがいつになくやる気だ。こんなに張り切っているのを見るのは初めてかもしれない。よほどコロンケーキが楽しみらしい。 そうして夕食前までは各自で部屋の掃除を済ませた。 掃除を済ませて一階に戻ると、キッチンの前に知らない男性が立っていた。「ん?おぉ、あんたらがミルドの連れてきたお客さんか。俺はあいつの父親でカイゼルってんだ。よろしくな」俺達もカイゼルさんに挨拶を返すと、席に着くように勧められた。 言われた通り席に着くと、エフェリスさんが食事を並べてくれた。「お掃除お疲れ様でした。さあさあ食べて下さいな。コロンケーキはデザートでお出ししますね」エフェリスさんが振舞ってくれた料理はどれもとても美味しかった。 デザートだけでなく食事までごちそうを用意してくれたようだ。「とても美味しいです」 「お口にあったようで良かったわ」

  • 人生の続きは異世界で~交換スキルの代償は金銭NG!?~   第59話 ミルド達との再会

    聞いたことのある声に振り向くとそこに居たのはやはり、以前世話になったミルドさんとエリネアさんの二人だった。「ミルドさん、エリネアさん、お久しぶりです。俺達は魔導都市がどんなところか興味があって観光に来た感じです。あ、この人は俺の旅の仲間です」 「カサネです。よろしくお願いします」 「俺はミルドだ、よろしく。アキツグさんとは以前ある人の護衛中に一緒になってしばらく同行していたんだ」 「エリネアです。よろしくお願いします」二人は何かの荷物を抱えていた。届け物の途中とかなのだろうか?「にしても観光か、それは良いタイミングで来たな。明日は魔法学園の学園祭だからな。楽しんでいくと良い」 「そうみたいですね。知らずに来たのでびっくりしました。ただ、そのせいで宿屋が全部埋まってしまっていて。どうしようかと思っていたところなんです」 「あぁ、、それはそうだろうな。・・・良かったらうちに来るか?部屋なら余っているが」 「えっ?良いんですか!?」降って湧いた幸運に驚き聞き返す。「あぁ、知らない仲でもないしな。両親も一緒に住んでいるが、二人ともおおらかな性格だから、俺の友人なら気にしないだろう。アンタらが良ければだが」 「俺は良いと思うんだけど、カサネさんはどう思う?」 「皆さんが良ければ、ぜひお願いしたいです」 「そうか。ならちょうど戻るところだし、一緒に来るか?」 「あ、ちょっと待ってください。あともう一人、この子、ロシェッテも一緒で構わないでしょうか?」俺の言葉に、ロシェが姿隠を解いた。周囲に居た人達が軽く驚いた声を出して通り過ぎていく。二人も突然姿を見せたロシェに驚いたようだ。「ハイドキャットか。初めて見たな。アキツグさんの従魔なのか?」 「はい。ギルドで登録はしています。大人しい子なので迷惑を掛けることはないはずです」 「なるほどな。うちの両親は猫好きだし、たぶん大丈夫だと思うぞ」 「良かった」 「あ、あの・・・この子、撫でても大丈夫ですか?」何だかエリネアさんが期待に満ちた目で聞いてきた。初めて見る表情だ。

  • 人生の続きは異世界で~交換スキルの代償は金銭NG!?~   第58話 マグザ到着・・・依頼達成?

    ハクシンと別れた後は特に何事もなくマグザまで来ることができた。 マグザは周囲を山に囲まれた窪地に作られた都市だ。 とある魔導士が隕石を落とした跡地に都市を作ったなんて逸話もあるらしい。 魔法学園は名前の由来だけあって大きく街の入り口からも見ることができた。 さらに学園の中には街の外からでも見える高さの塔が立っていた。街に入るとまずはカサネさんの希望で冒険者ギルドに向かった。 冒険者ギルドに入り、カサネさんは素材を売却するためにカウンターへ向かった。 俺は待つだけというのもなんだったので、何となく依頼掲示板を見に行くことにした。そこには様々な依頼が張ってあった。街中の下水道掃除や荷物運び、近辺のモンスター退治や素材採取など色々だ。 と、そこで俺は一枚の依頼に気づいた。「ハーピィ討伐依頼。貴重品の回収必須?」なんだかすごく思い当たる節がある依頼だ。というか間違いない気がする。「何だ兄ちゃん、まさかその依頼を受けるつもりか?止めときな、その依頼は俺達がこれから向かうつもりなんだ。早い者勝ちだから今から受けても無駄になるぜ?」 「え~と、いや、既に終わってるんです。この依頼」そう言って、俺はメギエスタから受け取った懐中時計を取り出した。「な、何だと?・・・確かにその懐中時計、依頼内容の品と同じじゃねぇか。何だよ、先越されたのは俺達の方ってことかよ」その男たちはがっくりと肩を落として、依頼掲示板の方へ戻っていった。どうやら別の依頼を探すことにしたらしい。なんだか悪いことをしたな。 でも、あの様子からまだ他に向かった人は居ないらしい。誰かがハーピィ討伐に向かう前で良かった。「カサネさん、ついでにこの依頼の報告も頼んだ」俺は受付に向かい、依頼用紙と懐中時計をカサネさんに渡した。「え?ハーピィ討伐依頼?・・・なるほど、そういうことですか。分かりました。」理解してくれたらしい。カサネさんは合わせて手続きを済ませてくれた。「それにしても、あのハーピィたちの討伐依頼が出ていたとは。ハーピ

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